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== ミュージアム ==

ウメサオタダオ展 ー未来を探検する知の道具ー

主催:日本科学未来館、国立民族学博物館
企画監修:ウメサオタダオ展実行委員会
★★★★☆



日本の文化人類学を拓いた「知の巨人」の足跡を探求する企画展

日本科学未来館で行われていた
「ウメサオタダオ展ー未来を探検する知の道具ー」展を見て来た。

梅棹忠夫は20歳の時にカラフト(現在のサハリン)、内モンゴル等を訪れ
フィールドの状況を記録し、膨大な情報をもとに未来を鋭く予見した。

本展示会では、氏が世界各地で記録したフィールドノートや
現地の状況を克明に記録したメモやスケッチ、直筆の原稿などが展示され
「知の巨人」の足跡を興味深くたどっていける構成となっている。

脳の中の生産活動を抽出し再編集していく氏の
作業現場を再現した「知的生産の現場」コーナーや
名著「知的生産の技術」に対する読者からの手紙で構成された展示、
初代館長をつとめた国立民族学博物館での業績展示など観どころも多い。

1960年代初頭には、工業化の次に
情報をつくる情報産業時代がやってくると予見しており
現在ではあたりまえになった情報化の概念をわかりやすく論じた。

氏のカードを使った膨大な情報の蓄積と整理力、
それを俯瞰し再編集しながら独自の分析を加え
来たる未来を的確にとらえる氏の鋭い眼差しに驚嘆せざるをえない。

梅棹忠夫は失明後も口述筆記による精力的な活動を続け
著作件数は7,000点に及んだいう。

昔一度だけ恩師に伴い梅棹資料室を訪問する機会を得た。
その当時、既に梅棹先生は視力を失っておられたが
先生のお話を直接聞くことができた事は
私の人生の中でも貴重な体験となっている。

原発事故や大規模な自然災害、国際的な経済不況の波等
様々な社会不安が渦巻く混迷の時代、
本展示会を訪れた多くの方々が、梅棹忠夫の足跡の中から
未来への羅針盤を見いだすヒントを感じとったのではないだろうか。

┃ テーマ:おすすめ! ━ ジャンル:その他

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== 現代ミステリ ==

天使と悪魔

ダン・ブラウン
角川書店

★★★



ヴァチカンを舞台に繰り広げられるノンストップ知的エンターテインメント

【あらすじ】
スイスのセルン(欧州原子力開発機構)で、
反物質を発見した科学者のベトラ博士が他殺体となって発見された。
その胸には、「イルミナティ」という焼き印が押されていた。
ハーバード大学の宗教的象徴学教授ロバート・ラングドンは、
セルンのコーラー所長から調査を依頼され
ベトラ博士の娘ビットーリアとともに行動を開始するが
博士が開発した膨大な破壊力を持つ反物質が何者かによって持ち去られ
ヴァチカンのどこかで夜の十二時に大爆発を起こす事が明らかになる。
一方、コンクラーベの直前の4人の枢機卿が行方不明になり
テロリストから殺人予告の脅迫が舞い込んだ。

【読みどころとポイント】
以前にダヴィンチコードを映画で見て
その勢いで買ったまま積ん読状態だったのをやっと読了。
ヴァチカンを舞台に繰り広げられる
ノンストップのタイムリミットサスペンス。
今頃読んでるの?とあきれられそうなのだがまあ仕方無い。

んで感想。イマイチです。

コンクラーベの最中に次々と殺される枢機卿、
謎の暗号を手がかりに繰り広げられる暗殺者との息づまる攻防、
刻々と迫る爆破時刻。まさに屈指のエンターテインメント…。
っていう具合に表現できるのでしょうが
正直言ってどうも私の好みではない。

全体的に近年のハリウッド映画に見られる
アクション重視のジェットコースター的な面ばかりが目立ち
作品の根幹をなす宗教対科学の深淵なテーマが立ってこない。

別に蘊蓄を並べて難しく書いてくれとは言いたくないが
テーマに対して全体の物語のトーンや語り口が極めて軽く
ストーリーもお決まりで新鮮味に乏しいのだ。

暗号を手がかりに誘拐された枢機卿を探しまわるシーンが
繰り返され読者はヴァチカンをこれでもかと引きずり回され
頭から結末までドタバタのチェイスが展開。
歴史や文化的な背景はよく書き込んでいるのだけれど
設定ばかりが先行してどうにもつくりものっぽい感じは否めない。

いろいろと課題ばかり書いてしまったが
本作はご存知の通りもちろん映画化されており
ローマ、ヴァチカンの観光名所がさまざまな場面で登場するので
きっと映画で見た方がずっと楽しめるのではないかと思う。
今度DVDを借りてみよう。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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== 国内小説 ==

武士道シックスティーン

誉田 哲也
文春文庫
★★★★★



女子高生と剣道のハイブリッドな展開が読ませる傑作青春ストーリー

【あらすじ】
幼い頃から剣の道を志し宮本武蔵を師と仰ぐ香織。
日本舞踊から剣道に転向したお気楽な早苗。
中学最後の横浜市民大会で初対戦した二人だったが、
香織は鮮やかに早苗に面をきめられ破れてしまう。
そんな二人は皮肉にも同じ高校に進み剣道部で再会することになったが…。
女子高生と剣道のハイブリッドな展開が見どころの人気シリーズ第1弾。


【読みどころとポイント】
もう既に不動の人気シリーズとなっている作品の1作目
さほど国内小説は読まないので随分遅れての読了となったが
噂にたがわぬ傑作青春剣道ストーリーだった。

女子高生と剣の道というハイブリッドな設定が大成功。
髪を金髪に染めて着け睫毛、ネイルアートに
ケバい化粧、スマートフォン片手に街を闊歩するチャラ系女子高生が
増殖している時代だからこそ、本書の設定は新鮮で多くの読者にうけた。

もちろん設定のうまさだけでなく
誉田哲也の物語づくりのうまさが光っている。
中心となる二人の女子高生(香織と早苗)の造形と
彼女たちを取り巻く登場人物の設定、
ストーリーの組み立て方、いずれもが実にうまいのだ。

磯山 香織
警察官で剣道家の父をもつ家庭に育った自称女剣士。
幼い頃から剣道にふれ、剣道以外のものに興味なし。
自分の目に立ちはだかるものは容赦なくぶった斬ると言い切る性格。
家族愛だとか友情だとか人に自分を委ねる生き方を嫌い
高校の同じ剣道部員との馴れ合いを避け一匹狼を貫く。
愛読書は新免武蔵(宮本武蔵)の五輪書ときている。
およそ誰の共感も得ないようなアンチヒロインだ。

西荻 早苗
日本舞踊から剣道に転身したお気楽のんきな性格。
剣道歴は浅いが日本舞踊をベースにした安定感とセンスで
時には強者からもするっと一本とってしまう天才肌。
相手とのトラブルを極力避けて
勝つことより剣道を楽しむ事に重きをおく女子高生。

物語の冒頭は二人が初めて相対する中学最後の剣道大会。
香織は絶対の自信をもって大会に臨んだが
何と早苗に正面から面を鮮やかにきめられ負けてしまうのだ。

剣士を自負する香織が、お気楽ものの早苗に負けるという
鮮烈なイントロダクションを読めば
誰もがたちまち物語に引き込まれてしまうだろう。

私も中学時代に剣道部に所属していたので経験としてわかるのだが
柔道の一本勝ちがたやすくないように
剣道でも相手をきれいに「斬る」というのはそう簡単には行かないのだ。

剣の道一筋を貫く香織だけに、この時の敗退は屈辱的であった。
そして香織が入学を果たした高校に早苗も入学してきたのだ。
高校に入ってからもそのトラウマは長く尾を引く事となる。

剣道は心技体が大事とはよく言ったものだ。
どんな達人でも立ち会い中にはわずかの隙ができる。
「あっ」と思った時には既に斬られている、というのが剣道だ。

圧倒的な強さを誇っていた香織だが
物語の後半では心の迷いから手痛い連敗を繰り返す。
彼女に何があったのかは物語を読んで欲しい。

私の個人的な感想としては
ハイブリッドなテーマや構成のうまさもさることながら
女子高生の若さゆえの心のとまどいや不安を、
剣の道に通ずる心技体と対比させて比喩的に描いていくことで
新鮮な青春ストーリーに仕立て上げた事が成功の要因と思っている。

彼女たち二人が今後どのような成長をしていくのか
今後の作品展開が楽しみだ。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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== 現代ミステリ ==

告 解

ディック・フランシス
ハヤカワ・ミステリ文庫
★★★



過去の競馬界で起きた不祥事の真相に新進の若手映画監督が挑む!

【あらすじ】
「私は…彼を殺したことを告白します」
末期癌で意識が朦朧となった老人の元装蹄師は、
枕元にいた新進の映画監督トマス・ライアンを神父と間違えて謎の告白を残す。
その後ほどなく元装蹄師は息を引き取り、トマスはさして気にもとめなかった。
トマスは過去の競馬界で起きた不祥事を題材にハリウッド映画づくりに努めていたが
不祥事の真相をめぐり脚本家との対立が顕著になっていた。
そんな折、ロケ中止の脅迫が舞い込み出演者がナイフで襲われ
やがてトマスにも魔の手がしのびよる。フランシス33番目の作品。

【読みどころとポイント】
ディック・フランシスの作品では競馬若しくは競馬に関連する題材が
ミステリの背景として扱われているため、
主人公は騎手や競馬に直接関わる職種に就いている事が多かったが
後期の作品では多彩な職業人が登場するようになり
それぞれの職種の知られざる面を読んでいく楽しみが増えた。

本作の主人公トマスは若手実力派の映画監督で
競馬を題材にした映画づくり取り組んでいるという設定だ。
本作では映画づくりと同時進行で物語が進んで行くため
さまざまな場面でハリウッドにおける映画づくりの舞台裏を
かいま見る事ができて実に興味深い。

映画は監督以外にも、映画会社、スポンサー、脚本家、演出家、俳優など…、
さまざまな職種の人々が関わる共同制作のビジネスである。
作中で制作される映画は、過去に英国の競馬界で起きた
実在の不祥事を題材にしている。
迷宮入りした当時の事件を作品として出版した作家が
自ら脚色し映画の脚本として再構成したものだ。

基本的には脚本があるのだからそのまま映像化すれば良いのだが
ハリウッドの映画づくりはそう簡単にはいかない。
ビジネスとして成功する映画に仕立てるには
必要に応じて脚本や演出を柔軟に変えていく作業が必要なのである。

原作を描いた作家はアメリカとイギリスで名誉博士号を取得している実力派で
脚本を書き換える監督のトマスに敵意を抱き様々ないやがらせを図る。
こうしたアンチな存在や個性的な映画スター、スポンサーたちを懐柔しながら
苦労して作品を仕上げていくプロセスは
さながら一級のビジネス小説を読んでいるようで興味深い。

今回★3つとしたのはミステリとしてのプロットがやや弱いから。
プロローグで謎の言葉を残したまま末期癌の元装蹄師が息を引き取るが
その後たいした事件も起こらないまま物語は映画づくりを中心に展開。

映画づくりの舞台裏を描いたサイドストーリーの方が前に出過ぎていて
フランシスの作品にしては全体的にサスペンス性に乏しいのである。

ところがミステリとしての謎解きが弱いかと言うとそんな事はなく
いったい何故映画づくりを妨害しようとする輩がいるのか
ナイフで殺人を犯してまで隠そうとすることは何なのか
かなり後半にならないと事件の真相や犯人がまるっきり分からない。

トマスが映画の題材となっている過去の不祥事の背景を探るプロセスが
本作のミステリと有機的につながっている点がミソなので
そこはぜひじっくりと読み込んでほしいと思う。

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== マンガ ==

ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~

少年チャンピオン・コミックス・エクストラ
宮崎 克(原著)、吉本浩二(イラスト)
秋田書店

★★★★★




漫画にかける手塚治虫と彼をとりまく編集者たちの熱き戦いのドラマ。

【あらすじ】
不朽の名作ブラックジャックはいかにして誕生したのか?
手塚治虫の漫画はいかにして作られていたのか?
彼を支えた編集者たちの漫画にかけた情熱とは?
漫画の神様の制作現場には想像を絶する格闘のドラマがあった。
”手塚治虫の創作の現場を関係者の証言で再現する魂のノンフィクション!

【読みどころとポイント】
私がブラックジャックにハマったのは小学校6年生の頃だったと思うが
わずか数十ページの中に凝縮された濃密な人間ドラマに
子どもながら圧倒されて夢中で読みふけったものだ。

本書はブラックジャック創作秘話というタイトルになっているが
内容的には手塚治虫と彼をとりまく編集者たちの
壮絶な漫画制作の舞台裏を追った熱きドキュメントである。

鉄腕アトムやジャングル大帝で大ヒットをとばした手塚治虫は
1,960年代後半になると劇画漫画が台頭するようになり、
スランプ状態に陥りアニメ事業の多額な負債も抱え虫プロは倒産。

「もう手塚は終わった」と世間も噂するようになる。
そこに名物編集長、カベさんこと「壁村耐三」が少年チャンピオンの編集長に就任し
手塚治虫に連載をもちかけ、彼は見事ブラックジャックで奇跡の復活を果たす。

このカベさんというのが実にヤクザな編集長で
担当編集者に「手塚の原稿とれなかったらぶっ殺す」と脅し
漫画家に対しても脅迫まがいの事を繰り返す鬼のような男なのだ。
それだけに手塚の編集担当者も必死だ。
本書を読むとマンガというメディアが
いかに漫画家と編集者の二人三脚で成り立っているかというのが実感できる。

手塚治虫の作品作りにかける情熱はすさまじく妥協を許さない性格ゆえ
締め切りを守らないのは日常茶飯事。
たくさんの連載を抱え各社の編集担当者が原稿回収にシノギを削る。
そんな中で自分の担当原稿を一番に仕上げてもらうのに誰もが必死なのだ。

手塚治虫は常に3〜4本のアイデアを考え
その中から編集担当者に一本に絞ってもらっていたそうだ。
手塚治虫渾身のストーリーだけに選ぶ方も真剣勝負。
いいかげんな態度や妥協は許されない。

途中、漫画の神様と言われている手塚治虫が
疲労困憊になりぼろ雑巾の様に床で眠るシーンが出て来る。
手塚の原稿遅れにキレた編集担当者が事務所の壁を壊す場面も出て来る。
これが神様の創作の舞台裏。まさに魂のぶつかり合い。命がけの格闘技なのだ。

本書の漫画のタッチはお世辞にも上手い絵ではないのだが
貪るように漫画と格闘する手塚治虫の鬼気迫る表情や
漫画にかける彼の熱い想いを迫真の描写で再現していると思う。

手塚治虫はスゴかった。そしてそれを影で支えた男たちもまたスゴかった。
今日のマンガがあるのはこうした人々の
血のにじむような格闘の日々があったからにほかならない。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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