== スポンサー広告 ==

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
┗ --:--:-- ━ Page top ━…‥・

== 未分類 ==

生物と無生物のあいだ

福岡 伸一
講談社現代新書
★★★☆



生命システムを分子生物学の観点からひもといたエッセイ

理系のこの手の本はさほど読む事は無かったのだが
帯ラベルで様々な著名人が絶賛していたので手にとってしまった次第。

「生物と無生物のあいだ」なんていうタイトルから
何やら哲学的な世界を想像してしまう読者も多いと思うが
内容はDNAや二重螺旋構造の解明に奔走した研究者たちの様子と
作者自身の追想録的内容が大半を占めている。

「生命とは自己複製を行うシステムである」という定義に対して
さらに「生命とは動的平衡である」ともうひとつの見方を提示する。
時間の経過とともに分子が絶えず入れ替わり不要なものは排出されていくも
ある秩序に基づき常に個体としての均衡を維持し続けるというのだ。

ここが筆者の論じたいテーマであって、
その主題にいたるまでにDNAや二重螺旋解明の道が延々と語られるわけだ。
そうしたエピソードひとつひとつは興味深いものの
研究者たちの競い合いや筆者の大学時代の追想といった
DNA研究の内幕的お話が多くて全体として構成のまとまりに欠けている。

だだ、こうした本を読むと生命システムの不思議さに改めて驚いてしまう。
こうした秩序ある増殖と喪失が絶えず繰り返されながら
生物は生物たる存在を確固たるものにしているわけで
そこには何か理屈だけでは説明し難い深遠な世界が広がっているように思うのだ。

本書を読んで遺伝子系や生命の不思議について興味を持ったので
他の本にもトライしてみようと思う。

最後に、理系の学者が書く文章は読み物として読みづらい、もしくは
読んでいて何だかさっぱりわからない、といった風評が多いようで
ちょっと文学的な叙述や初学者にもわかりやすい見立て話などが用いられると
大仰に文章が上手いと賛辞を贈る傾向があるようだ。

本書も多くの読者からその文章表現において絶賛を得ているのだが
ちょっと騒ぎ過ぎとも思える。
サイエンスそのものが知的冒険なのだから
一般の科学書の叙述にももっと読み物としての冒険があって良いと思うのだ。
スポンサーサイト

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

┗ Comment:3 ━ Trackback:0 ━ 21:35:35 ━ Page top ━…‥・

== 海外SF ==

2001年宇宙の旅

アーサー・C・クラーク
ハヤカワSF文庫
★★★★★



壮大な宇宙への旅を描いたSF史上に燦然と輝く記念碑的傑作。

【あらすじ】
三百万年前の太古にヒトザルが見つけた謎の黒い直立石(モノリス)。
その謎の物体は1999年の月面開発で再び人類の前に出現する。
いったいそれは何を意味するものなのか?
そしてさらに時代は進み、飛行士ボーマンを乗せた宇宙船は土星をめざす。
果たして、ボーマンが宇宙の果てで見た想像を超越する世界とは?
SF史上に燦然と輝く記念碑的傑作。

【読みどころとポイント】
初めて本書を読んだのは中学校の時だったろうか。
これで3度目の再々読。
何度読んでも新鮮な感動がある名作。

全編に漂う静謐で透明感のある旋律と構造美。
圧倒的な虚無感が生み出す神秘的で深遠な世界。
壮大な宇宙に漂う宇宙船という閉鎖空間での緊迫感あふれるドラマ。
どれをとっても素晴らしいの一言。

ヒトはどこから来たのか?我々とは?そして宇宙とは何か?
この深淵なテーマをクラークは見事な筆致で描き出した。
宇宙飛行士ボーマンがディスカバリー号で挑んだ宇宙への旅は、
人類創世と進化の謎を遡る壮大なスケールの旅でもあったのだ。

本書ではHALというコンピューターが反乱を起こす。
機械が高度な感情を持つ存在として描かれる訳だが
この先コンピューターが人格や感情を持つことは有り得ないと思う。

それでもこの緊迫感とリアリティはどうだろう。
地球から遠く離れたはるか彼方での飛行士ボーマンの孤独な戦い。
壮大な宇宙空間とちっぽけな宇宙船の対比も鮮やか。
木星や土星探査を当時ここまでリアリティをもって描いた事も見事。

ガガーリンがボストーク1号で世界最初の有人宇宙飛行に成功したのは1961年。
本書が出版されたのは1968年。そしてその一年後の1969年には
アームストロングが月面への一歩を記した。

時代は流れ、現在では国際宇宙ステーションの開発が進められ
我々人類は遅ればせながらも、クラークの描いた宇宙の旅に
一歩ずつではあるが確実に近づいているのだ。

今後、私たちのずっと先の世代が本書を読んだとき
いったいどのような宇宙への旅が実現しているのだろう。
宇宙へのフライトの旅中で本書を手にする読者も現れるのでは。

巨匠クラークが残してくれた『2001年宇宙の旅』は
我々人類の過去と未来をつないでくれる架け橋なのかもしれない。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

┗ Comment:0 ━ Trackback:0 ━ 23:35:40 ━ Page top ━…‥・

== 国内SF ==

虐殺器官

伊藤 計劃
ハヤカワ文庫JA
★★★★★



人類の罪と罰を圧倒的なディテイルで描く近未来フィクションの金字塔!

【あらすじ】
サラエボが核爆発によってクレーターとなった近未来。
先進諸国は厳格な情報管理体制でテロに対抗する一方、
後進国では内戦と民族衝突、虐殺の嵐が吹き荒れていた。
アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は、
大量殺戮の謎を探るべく戦地へと向かい、
虐殺の影に暗躍する謎の人物ジョン・ポールの存在をつきとめる。
果たして彼は何者なのか、そしてその目的は?人々を狂わす虐殺の器官とは?
不治の病で急逝した伊藤計劃が残した近未来フィクションの金字塔。

【読みどころとポイント】
久しぶりにスゴイとうならせる小説を読んだ。
圧倒的なディテイルと近未来のリアリティある設定、
ふんだんに盛り込まれた豊富な知識と教養。

作者の伊藤計劃は、政治や経済、科学、宗教、哲学、情報など
様々なジャンルにおよぶ知を総動員し
単なる軍事スリラーにとどまらない重厚かつ崇高な叙事詩を構築した。

随所に織り込まれる技術も今日の研究領域の延長にあるものばかりで
それが作品のリアリティを高めている。
過酷な戦闘状況に対応するための感情や痛覚へのマスキング処理や
ヘッドセットギアを使わず特殊な薬品で網膜へ直接情報を表示できるシステム、
体内埋め込み型のID認証チップ、さらには人工筋肉を使用した輸送機など
現在の社会において実験段階もしくは構想中の技術が
既にあらゆる場面で実用化されているという設定なのだ。

主人公のクラヴィスは、母親の死について負うところがあり
それが精神的なトラウマになり
自分自身の行動を常に客観的に自問自答しながら戦地での行動にあたっている。

彼の乾いた目線を通して描かれる殺戮の現場は
どこか無機質で抑揚の無い空虚な世界観として提示され
それが逆に人類の罪と罰を明確に浮き立たせ
読者の胸にぐっと迫ってくるのだ。

大量虐殺やテロを抑えるための正当化された暗殺任務に疑問を持ちつつも、
虐殺を引きおこす人物にどこか同じ匂いを感じ取ってしまうクラヴィス。
彼もまた現代社会のゆがみが生み出した虐殺器官であったのかもしれない。

ストーリーについてはやや難があり
謎の人物が大量虐殺に及んだ理由は十分納得できるものではなく
最後に主人公がとった行動と結末についても不満が残る。
また大量虐殺を引き起こす具体的なシステムが
十分開示されていないことに不満を示す読者もいるだろう。

それでも、ここまでの高水準のフィクションを
堂々と書き上げた伊藤計劃の並々ならぬ力量には驚嘆せざるをえない。
彼の急逝が本当に惜しまれる。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

┗ Comment:2 ━ Trackback:0 ━ 22:41:13 ━ Page top ━…‥・

== 現代ミステリ ==

葬儀屋の未亡人

フィリップ・マーゴリン
早川書房
★★★★



正当防衛か、それとも計画殺人か?二転三転する衝撃のミステリ!

【あらすじ】
事件の通報を受け刑事たちが現場に駆け付けると
片手に拳銃を握りしめた女性が、
呆然としながら射殺された夫の身体を抱いていた。

白いガウンは血しぶきに染まり、
さらに傍らには不審な男の射殺死体が倒れていた。
女性は州の上院議員をつとめるエレン・クリース。
彼女は熾烈な選挙戦の真っ最中だった。

当初、不審者の侵入に対する正当防衛と思われたが
血痕などの状況から一転、彼女に嫌疑がかかる。
高潔な人柄で知られるクィン判事が、事件の審理を担当することになったが
事件は思いもよらぬ方向へと転がりだす。

【読みどころとポイント】
とにかく、プロットがよく計算されていて
緻密なミステリが構成されている。
章立てのひとつひとつが後々に謎をとく重要なファクターになるように
隅々まで十分ミステリが練り上げられているのだ。

巻き込まれるのが公明正大な判事というのもいい!
彼の行動規範が常に彼自身をピンチに陥れるという皮肉な点が良いのだ。
私としては、クィン判事が法の番人として
判事を全うすることに命をかけている人物であるという点を
ミステリの重要な要素に織り込んだ点を評価したい。

選挙戦と法廷戦を対にした重層的な構成や
多くの登場人物を巧みに動かしていく手腕。
二転三転するミステリとしての醍醐味。
“ミステリ界の10割打者”という肩書きどおりのクオリティだ。

やや難を言えば、中盤までは重層的な事件の構図を俯瞰して見せるために
様々な登場人物の視点で物語が進行し
誰が主役なのかよくわからず状況説明に終始しがちでやや平板。
中盤以降は、クィン判事を中心にストーリーが展開し
彼が幾度となく窮地に立たされるためサスペンスがぐっと盛り上がりを見せる。

ミステリとして若干作りすぎという指摘もあるかもしれないが
とにかくとっても計画的な犯罪であり、
犯人は実にクレバーなので、そこまで考えて犯罪を計画していたのか!と
感心してしまう読者も多いかも。
フィリップ・マーゴリン、一度は読んでみてください。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

┗ Comment:0 ━ Trackback:0 ━ 12:57:49 ━ Page top ━…‥・
New « ┃ Top ┃ » Old
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。