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== 国内小説 ==

砂漠

伊坂幸太郎
新潮文庫
★★★★★



パンクロックのビートにのせて描く現代の大学生たちの青春小説。

【あらすじ】
同じ大学に入学した5人の男女がコンパで出会った。
合コンや麻雀、ボウリングに明け暮れる薄っぺらな毎日、
そんな彼らもちょっとした事件に巻き込まれ…。
共に経験したいくつかの出来事が彼らをほんの少し成長させていく。
社会という砂漠の中にある大学という小さなコミュニティで
あがきもがきながら何かを見つけようと生きる現代の学生たちの姿を
パンクロックのビートにのせて描くリアルな青春小説。

【読みどころとポイント】
伊坂幸太郎が書く現代の大学生たちの肖像。
麻雀とコンパとボーリングに明け暮れる
薄っぺらな大学時代の生活を極めてリアルに描いた佳作だ。

作中で事件が起こるけれど本作は別にミステリではなく
あくまでも北村と取り巻きの大学生たちの日常がメイン。
淡々と進む物語ではあるけれど、物語は読者を飽きさせない。

どこにでもあるような大学生活の風景が
伊坂幸太郎の筆力によって爽やかな感動を生む物語に仕上がっている。

冒頭に、北村は仲間の一人からこんな事を言われる。
学生は近視眼型か鳥瞰型に分類されると。

主人公の北村は鳥瞰型、冷静で慎重だが、事なかれ主義。
どこか社会を冷めた目で傍観しているタイプだ。
ところが本書には、彼と相反する西島という男が登場する。
思い立ったら即行動。独特の理論で周囲を論破する近視眼型タイプ。

彼の行動は北村をはじめ友人たちの予想を逸脱しているが
不思議とその結果は吉と出る事が多いのだ。
「一生懸命」や「努力」「熱い友情」なんて言葉が
どうもしらけがちな現代の学生生活の中において
西島のような存在は極めて特殊だ。

彼らは現代社会にどこか斜に構えて冷めた目線を送りつつ
彼らなりに現代社会の厳しさや現実を認め
それを「砂漠」としてとらえ、一瞬の大学生活を謳歌する。

北村の彼女が彼に向かって言うセリフ。
「学生は、小さな町に守られているんだよ。
町の外には一面、砂漠が広がっているのに、守られた町の中で暮らしている」

しかし西島は北村にこう言う。
「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、
 余裕でできるんですよ。」

どこか冷めたような現代の若者たちの日常に
「西島」という古風で行動派の人間を置いた事で
薄っぺらな大学生活を鮮やかな風景に一変させたのがミソ。

ストレートな青春小説を書きにくい時代かもしれないけれど
こうした時代に爽やかな感動を呼ぶ物語に仕上げた伊坂の筆力は見事。

そして最後の卒業式に学長が社会に巣立つ学生たちに語る言葉が白眉。
さすが泣かせるよ、伊坂幸太郎!


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┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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== 国内小説 ==

ダック・コール

稲見一良
ハヤカワ文庫
★★★★★



美しく幻想的な調べが織りなす珠玉のハードボイルド

【あらすじ】
夏も終わりかけの河原で若者は石に鳥の絵を描く不思議な男と出会う。
驟雨を避け二人でキャンピングカーに避難したが
やがて若者はまどろみ六つの夢を見る。
自然への畏怖や愛惜、野生の厳しさ、男たちの矜持などを
美しく幻想的なハードボイルドに昇華させた必読の短編集。


【読みどころとポイント】
何度も読み返したくなる小説というものがある。
この物語を初めて読んだのはもう随分前になるのだが
今でも時折頁を開いて新鮮な感動を味わっている。

稲見一良は癌のため1994年に9冊を残してこの世を去った。
ハードボイルドと大人のメルヘンが融合したような
タフだけれどどこか透明感がある美しい物語を書ける作家だった。

本書は、日常の仕事に忙殺される生活に疲れ旅に出かけていた若者が、
石に鳥の絵を描く不思議な男と河原で出会うシーンから始まる。
二人は降ってきた雨を避け若者のキャンピングカーに乗り込むが
片言の会話も尽き男は眠り、やがて若者も夢の中へ誘われる。

夏の終わりの河原、石に鳥の絵を描く男との出会い、山を包む豪雨…
若者の夢想がそのまま以降の6つの物語へとつながっていくのだが
このプロローグから本編への入り方が映像的で何とも美しい。

少年と初老の男の密猟譚、アメリカ山中でのマンハント、
漂流した漁師が遭遇する不思議な出来事など、物語は多彩であるが
どれも味わいがありそこには静かな感動がある。

6つの短編はそれぞれ全く別のストーリーで趣も異なるものの
根底には自然への畏怖や愛惜、野生の厳しさ、男たちの矜持など
稲見流ハードボイルドが脈々と流れている。
作品を読むたびに彼の死が惜しまれてならない。

本書は第4回の山本周五郎賞受賞作。
小池真理子、宮城谷昌光、中島らも、安倍龍太郎など
錚々たるノミネート作家を退けての受賞である。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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== ハードボイルド ==

雨のやまない夜

サム・リーヴズ
ハヤカワ文庫(絶版)

★★★☆




哀しみと孤独に満ちた男の姿をクールに描き出すハードボイルド


【あらすじ】
シカゴでタクシー運転手を営むクーパー・マクリーシュは
このところ恋人のダイアナについて不安を抱えていた。
数日前にダイアナの昔の知り合いと名乗る男が現れてから
彼女の様子がどうもおかしいのだ。
ダイアナの過去を探りはじめたクーパーはやがて
ある恐喝事件の渦中へと巻き込まれていく。
「長く冷たい秋」に続くシリーズ第二弾。

【読みどころとポイント】
1994年に発表されたシリーズ4巻のうちの2冊目。
シカゴという荒っぽい街でタクシー運転手を営む
内向的だがタフな主人公クーパーを軸に展開するストーリー。

大都会でひっそりとタクシーを運転するこのクーパーにも
思いをよせるダイアナという恋人がいる。
本書ではその彼女がある事件に巻き込まれ
やがてクーパーも彼女を助けるべく事件の渦中にはまっていく。

荒れた街でも自身の信条を貫く孤独なタクシー運転手の姿は
感傷的な物語の演出とあいまってハードボイルドの雰囲気たっぷり。
クーパーの背中から漂う静かな哀感がたまらなくクールで
今回も読了後にやっぱりイイねと深くうなずいてしまった。

最近のネオハードボイルドでは主人公に頼りになる相棒がいたりするが
このクーパーには仲間と呼べる者は誰一人いないのである。
すべての危機を一人で乗り越えていかなければならず
それがまたハードボイルドな雰囲気に一役買っている。
また、今回は犯罪者側の用心棒をつとめるウェスなる男が
冷徹な殺し役として登場し全体の緊張感を高めている。

卑しいシ街シカゴの夜にタクシーを駆る
哀しみと孤独に満ちた男の姿をクールに描き出したハードボイルドの逸品を
機会があったら読んでみてください。

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== 警察小説 ==

殺人者の顔

ヘニング・マンケル
創元推理文庫

★★★★



中年刑事クルト・ヴァランダーが活躍する人気シリーズの第1弾。

【あらすじ】
スウェーデン南部のスコーネ地方の村で、老夫婦が何者かに襲撃を受けた。
隣人の通報で警察が現場に赴くが夫は既に死亡。妻も瀕死の状態であった。
二人とも激しい拷問を受けた痕跡があり、重傷を負った妻も
「外国の…」という謎の言葉を残して搬送先の病院で息を引き取る。
一方、スウェーデン国内ではかねてから外国人排斥運動が高まり
今回の事件が運動に拍車をかけ、移民一人が射殺されるという事件が発生。
スウェーデン警察小説に新たなページをつくるシリーズの第1弾!

【読みどころとポイント】
ご存知、中年刑事クルト・ヴァランダーが活躍するシリーズの第1弾。
地元スウェーデンではもちろん、日本でも人気のシリーズだ。

先に本シリーズの傑作とされる「目くらましの道」を読了しているので
内容はいかにと思い読み始めたが、初回から高水準の内容だ。

とにかくこの中年バツイチ刑事クルト・ヴァランダーの造形がいい。
一言で言えば、冴えない中年オヤジなのである。

出て行った女房に泣きながら帰宅を懇願したり、
ひとりヤケ酒をあおって自虐的にふさぎこんだり
寂しさから女性検察官に抱きついたりと、兎に角情けないのだ。

彼は捜査においても天才的なひらめきを発揮するタイプでなく
事実をひとつずつ積み上げながら真実に迫っていく
ある意味では不器用な警察官である。

かの「マルティン・ベック」シリーズに代表される通り
スウェーデンの警察小説は、手がかりを地道に積み上げ
徐々に事件の核心に迫っていく堅実な構成が特徴であるが
これに冴えない中年オヤジの哀感を掛け合わせたことで
幅広い読者層の支持を得たのではと思う。

肝心のミステリはよく出来ていて
死亡した老夫妻が何故激しい拷問を受けていたのか、
ダイイングメッセージが意味するものは何か等、
魅力的な複数の謎が冒頭に提示され
捜査の進展が新たな謎を呼ぶ展開も読者を飽きさせない。

スウェーデンにおける外国人排斥運動など
当時の社会状況も物語の背景に据えることで
小説の奥行を持たせ単なる謎解きものに終わらない構成になっている。

シリーズは既に完結しているようだが
これから残りの既刊を読んでいくのが楽しみである。


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== 現代ミステリ ==

川は静かに流れ

ジョン・ハート
ハヤカワ文庫

★★★★☆



川の流れの如くゆったりと流れる重厚な家族の物語


【あらすじ】
アダム・チェイスは5年ぶりに生まれ故郷に帰ってきた。
5年前にある事件の容疑者として逮捕され
無罪放免で釈放されたが街に居づらくなり故郷を出たのだ。
ところが苦境に陥った親友からの依頼で
やむなくアダムは故郷に帰るハメになった。
しかし彼を待ち受けていたのは新たな事件だった。

【読みどころとポイント】
この作品は単純なミステリの範疇に収まらない
親と子の愛、兄妹の絆、幼なじみとの友情を
切なく描き出した屈指の物語である。

5年前の事件で家族の中に大きな溝が生まれ
アダムの心にも大きな傷が残った。

かつての事件から5年がたったとは言え
川辺の田舎町ではアダムの帰省を歓迎してはいなかった。
そしてアダムの周りで新たに起こる殺人事件。

またもやアダムに容疑の目が向けられ
街は不穏な空気に包まれる。
かつての恋人ロビンは地元の刑事となっており
アダムと職務の間で心が揺れ動く。

この物語には実に多くの人物が登場するが
脇役ひとり一人にいたるまで細かな目線が行き届き
重層的な人間ドラマが鮮やかに展開される。

過去の事件と現在の事件が有機的に結びつく展開は
ミステリとして、いささか新鮮味に欠けるけれども
それでもこの物語のクオリティを損なうものではない。

そして幼少時代の記憶の中に流れる川の情景。
ノース・カロライナとサウス・カロライナにまたがるこの川は
川辺に暮らすアダムたちの暮らしと共にあった。

その穏やかゆったりとした流れは
けっして戻れない過ぎ去った美しい時代を
象徴的に浮かび上がらせるモチーフになっている。

この作品はジョン・ハートという作家の
並々ならぬ技量を存分に味わえる作品である。
スリルやエンターテインメント性には乏しいけれど
それを補って余りあるこの芳醇なミステリを推したいと思う。

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== 国内小説 ==

武士道セブンティーン

誉田哲也
文春文庫

★★★★★



女子高生二人が活躍する大人気青春エンタメ剣道ストーリー第2弾!

【あらすじ】
剣一筋の磯山香織と日本舞踊から転身したお気楽不動心の甲本早苗。
高校2年生になり、早苗は父親の転勤について福岡へ。
剣道の強豪、福岡南高校に転入するも強豪校ゆえの慣習にとまどう毎日。
一方の香織は早苗のいない剣道部で悶々とする日々を過ごす
やがて二人は夏のインターハイで再会を果たすが…。
青春時代の戸惑いや不安、家族との軋轢、友情と恋愛、
多彩なエピソードを盛り込みながら
武士道とは何かを二人の女子高生が探っていく人気シリーズ第2弾。


【読みどころとポイント】
はい、あいかわらずぶっちぎりの面白さです。
剣の道一筋の磯山香織と、日舞から剣道に転身した甲本(西荻)早苗が
もがき苦しみながらそれぞれの武士道を模索していくストーリーは健在。

父親の転勤について福岡へ渡った早苗は剣道の強豪である福岡南高校に転入。
そこには強豪がゆえの集団競争、弱肉強食、合理主義の世界が待っていた。

そんな中、剣道をスポーツ至上主義と割り切る黒岩怜那との出会い。
合理的に勝つことのみを信条とする怜那に早苗は違和感を覚え
やがて二人には大きな溝が生まれていく。

一方の香織は早苗のいなくなった東松学園に一抹の寂しさを感じつつ
その空しさを後輩の指導にぶつけて悶々とする日々が続く。

まず今回の物語で成功しているのは、あえて二人を遠ざけることで
お互いの存在感をそれぞれが強く意識し合う構成にしたこと。
離れてみて初めてわかりあえる部分というのがあるわけで
この展開が憎らしいほど見事に成功して熱い友情エンタメになっているわけだ。

このセブンティーンでは二人をとりまく多彩な脇役にもスポットをあて
物語の厚みもぐっと増して面白さが倍増している。

僕が上手いなと思うのは、「武士道」という見立てを
学校生活での不安や葛藤、いじめ問題、家族との軋轢等、
現代の若者たちが抱える課題をからめながら書くことで
誰もが共感できる上質な成長小説に昇華させている点だ。

今回も文句無しの★5つ!


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