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== 現代ミステリ ==

半身

サラ・ウォーターズ
創元推理文庫
★★★★



薄暗い監獄を舞台に霊媒師と令嬢のミステリアスな交情を描く一遍

【あらすじ】
1874年の秋、慰問のためにミルバンク監獄を訪れた令嬢マーガレットは
そこでミステリアスな雰囲気を持つ女囚シライナと出会った。
外界と隔てられた薄暗い監獄の中で語られる不思議な言葉。
霊媒の力を持つと言うその女囚の慰問を繰り返すうちに
マーガレットは次第にシライナの魅力に取り憑かれていく。
魔術的の如きミステリアスな筆さばきが読者を眩惑し
深い闇の世界へと引きずり込むサマセット・モーム賞受賞作。

【読みどころとポイント】
ビクトリア朝時代の影の部分を描いた暗く陰湿な物語。
物語の序章は、不穏な空気と共に何が起きているかわからないまま
一人の婦人の謎めいた死のシーンで幕があがる。
そして物語は一転、一人の令嬢が慰問のためにこの監獄を訪れ
ミルバンクの奥深くへと分け入っていく陰鬱な場面へ転換していく。

舞台になっているミルバンク監獄というのが何ともおぞましい。
この監獄は石壁に囲まれた五角形の獄舎が花弁のように構成され
中央の六角形の敷地に立つ塔からすべての獄舎を見渡せるのだ。
これによって全ての囚人は四六時中監視の目にさらされていると錯覚し
やがて従順になり矯正されていくという不気味なシステムなのである。

昼間でさえ薄暗い重苦しい監獄の雰囲気を
作者のサラ・ウォーターズは圧倒的な筆致で描き出す。
この執拗なまでの筆さばきは正にウォーターズの真骨頂。
読む者を深い闇の中へとぐいぐい引きずり込んでいくのだ。

無実を訴える者、看守を襲って独房に入れられる者、
精神病の如く奇声を発する者や凶暴さを剥き出しにする者。
その中に何か不思議な雰囲気を醸し出す美しい女囚がいた。
霊媒師のシライナがマーガレットに語りかける言葉は
魔術のように彼女を眩惑し虜にしていく。

上手い。とにかく上手い。好き嫌いは別にしてこの描写力は絶品だ。
上流家庭の堅苦しい因習と閉塞感に苛まれるマーガレットと
冤罪ともとれる罪で収容されたシライナとの間に芽生える愛情が
読者の眼前に万華鏡のように妖しく展開するのだ。

この繰り返し描かれる慰問の結末に訪れる驚愕のラストは
ここまでのプロセスがじっくり描かれているだけに効果は絶大。
何とも恐ろしく残酷な物語。やはりウォーターズはただ者では無い。
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┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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== ハードボイルド ==

ピアノ・ソナタ

S.J. ローザン
創元推理文庫
★★★★★☆



タフで心優しき探偵ビルが危険な潜入捜査に挑む傑作ハードボイルド

【あらすじ】
ブロンクスの老人ホームで警備員が殴り殺された。
被害者のおじから捜査を依頼された探偵ビルは
警備員に扮して潜入捜査を開始する。
手口から地元ギャングの仕業と警察は断定したが
ビルは納得がいかず真相の追及に奔走する。
タフで心優しき探偵ビルが相棒リディアの助けを借りて
危険な捜査に挑む人気シリーズ第二弾。

【読みどころとポイント】
ペアで探偵業を営むリディア&ビルの人気シリーズ第二弾。
リディア、ビルと回ごとに語り手が変わるが
今回は白人探偵ビルの視点で語られる骨太なハードボイルドだ。

ビルが潜入捜査をする老人ホームの立地は
ブロンクスの中でも少年ギャング団が仕切る荒れた一角。
高い塀で守られた本施設も一歩外に出ればそこはジャングル。
死の危険と隣り合わせなのだ。

本作の特徴は、土地開発にからむ汚職や高齢者介護、
ストリートチルドレン、ドラッグ、違法医療など
アメリカの現代社会が抱える諸問題を織り交ぜながら
それらを重層的に組み合わせてミステリの枠組みを構成した事だ。

悪が存在しそれを正義が裁くという単純な物語ではなく
アメリカの社会システムが生んだ複雑な都市の課題と
その結果生まれた人々の哀しみや偽善、エゴなどを
丁寧な筆致で紡ぎだした濃密な人間ドラマが形成されている。

タフだけれども感受性豊かな心優しいビルが
捜査の過程で出会う人々とのやりとりが何とも素晴らしい。
特にホームの高齢者アイダとのシーンが胸を打つ。
抑制が効いている分、泣けるのである。

物語の合間に挿入されるビルのピアノ演奏もポイント。
ビル自らの心の隙間を埋めんとするシューベルトの旋律は
優しく美しく卑しい街ブロンクスに一条の光をもたらしてくれる。

地元ギャング団「コブラ」との緊迫感あふれるやりとりや
ラストの攻防もスリリング。相棒のリディアも胸のすくような活躍を見せる。

作家ローザンの登場人物一人ひとりに向ける眼差しが優しく
どこか心温まる読後感も人気の秘密だろう。
アメリカ私立探偵作家クラブのシェイマス賞最優秀長編賞受賞も納得の出来映え。
未読の方にはぜひ読んでいただきたい一作。

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