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== 現代ミステリ ==

夜明けのメイジー

ジャクリーン・ウィンスピア
ハヤカワ・ミステリ文庫
★★★★★



戦争に翻弄されつつも希望を失わず強く生きるメイジーのドラマチックな物語

【あらすじ】
1929年、ロンドンで探偵事務所を開いたメイジーの初仕事は、
ある中年男性からの依頼による妻の浮気調査だった。
メイジーは尾行を開始したが、その妻が通っていたのは墓地であった。
上流家庭のメイドから大学生、看護婦、そして探偵へと
戦争に翻弄されながらも明るく強く生きるメイジーのドラマチックな運命を描く
アガサ賞、マカヴィティ賞のダブル受賞に輝いた作品。

【読みどころとポイント】
物語の第1部は、依頼人の妻の素行調査という探偵小説のおきまりのパターン。
調査によって妻がいつも訪れていたのは墓地であることが判明するのだが
このくだりが、実にかくよく書けているのである。
墓地に足繁く通う女性の哀しみが痛いほど伝わって来る書きっぷりなのだ。

ところがこのエピソードは、はっきりした結びが無いまま一旦幕を閉じ、
第2部で時代は1910年へと遡る。メイジーはまだ13歳。
くらしの貧しかったメイジーは貴族の家にメイドとして働くことになった。
そこでの様々な人々との出会いが彼女の運命を大きく変えていく。

メイドから才を見いだされ大学生となったメイジーだったが、
ほどなく戦争が始まり看護婦へと転身。そして運命の人との出会い。
何と本書では若かりし頃のメイジーのエピソードに
実に物語の半分以上がついやされ、その間ミステリ的な要素は皆無なのである。

ところが物語はまったく飽きる事無く、途中でやめるのももどかしいくらい。
いきいきとした人間ドラマに満ちあふれているのである。
そして何よりも、メイジーの周りを固める脇役たちが良い。

メイジーの才能をいち早く見抜き勉学の機会を与えたレディ・ローワン。
メイドに嫉妬しつつも彼女を応援しているメイド仲間のイーニッド。
貧しいながらもメイジーのために必死に働き彼女を見守り続ける父フランキー。
メイジーの人生の師でもあるモーリス医師などなど。

彼ら(彼女ら)との交流のエピソードひとつひとつが実に印象的で、
物語にぐっと深みを与えているのだ。

そして第3部では、再び時代は1929年に戻り
第2部後半のエピソードが第1部の調査と有機的に結びつきながら
ミステリとしての構成を形づくってゆくのである。これには驚いた。

最後まで読み終えると、なぜ第2部で延々とメイジーの人生が書かれたのか
作者の意図とテーマがやっとそこでわかるのだ。

物語の根底にあるのは戦争の悲惨さと人生への希望である。
戦争に翻弄されつつも、けっして明るさと希望を失わないメイジーの姿は
本書に接した読者の多くに感動をもたらしているに違いない。

ラストのメイジー自身に係る挿話はとても悲しものだけれど
それでいてどこか希望の光が感じられる結びとなっている。
出会えた事を喜びたくなる、そんな素晴らしい作品である。
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┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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== 冒険小説 ==

仏陀の鏡への道

ドン・ウィンズロウ
創元推理文庫
★★★★



文化大革命後の中国を舞台に探偵ニールが悪戦苦闘するシリーズ第2弾

【あらすじ】
ヨークシャーでひっそりと生活する探偵ニールの元に
またまたやっかいな仕事が持ち込まれた。
強力な植物成長促進エキスを作り出した有能な化学者が、
中国娘に心を奪われ、行方知れずとなったらしい。
渋々ながらも仕事を引き受け、香港に飛んだニールだったが
そこには想像も出来ない苦難が待ち受けていた!
文化大革命後の混乱冷めやらぬ中国を舞台に
探偵ニールが悪戦苦闘する人気シリーズ第2弾。

【読みどころとポイント】
文化大革命後の中国を舞台にして
とにかく、よく頑張って書きました!という感じ。
文革に関わる中国の社会背景をかなり調べたものと思う。

文革後の混乱と水面下での反体制者の攻防
謎の中国美女と米国科学者の亡命、CIA職員の暗躍など
いろんなネタを複雑にからませながら
骨太のストーリーに仕上がっている。

内容も探偵小説というより冒険小説に近い仕上がり。
1作目で軽口を連発していたニール君に
これでもかという試練が襲いかかる。
魔の九龍城で軟禁されたニール君の何と哀れなことよ。

しかしながら、文革に対する実質的な認識が乏しい私としては
やや助長な背景の説明がかえって煩わしく感じられ
前作のようなスピード感が無かったのが残念。
冒険小説としての仕立てと物語のリズム感が合わないのだ。

全体的に作者の書きっぷりの苦労が行間から感じられ
もうひとつ小説にのめりこむ事が出来なかったというのが本音。

それでも、ニール君が真面目な中国人の通訳の青年に
スラングを教えて徐々に打ち解けて行くシーン等は十分笑えるし
後半の神の頂への登攀シーン等はかなり良い出来。
山岳で迫り来る敵との攻防もスリリングでよろしい。

ラストのまとめ方はやや強引さを免れない印象ではあるが
この難しい時代の中国を舞台を設定した意気込みは買いたい。
さて、次は評価も高い3作目「高く孤独な道を行け」だ。

┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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