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== 海外文学 ==

風の影

カルロス・ルイス・サフォン
集英社文庫
★★★★★☆



バルセロナの光と影を背景に謎の作家の数奇な人生を描く世界的ベストセラー

【あらすじ】
1945年のバルセロナ。霧に包まれたある夏の朝、
少年ダニエルは父に連れられ、
膨大な古書が眠る「忘れられた本の墓場」を訪れる。
そこで手に取った1冊の本『風の影』に魅せられたダニエルは
謎の作家フリアン・カラックスの過去を探求することになった。
数奇に満ちた作家の人生をたどるダニエルだったが
そこには思いもよらぬ運命が待ち受けていた。
17言語、 37カ国で翻訳出版され世界中で絶賛されたベストセラー。

【読みどころとポイント】
以前から読書好きの方々の間で絶賛されていたので
いつか読んでみたいと思っていた小説のひとつ。
噂に違わず読書の悦びを堪能できる素晴らしい物語だった。

冒頭部「忘れられた本の墓場」にダニエルを連れて来た父親が
息子にゆっくりと語りかける言葉。
「ここは神秘の場所なんだよ、ダニエル、(中略)
時の流れとともに失われた本が、この場所では永遠に生きている。」
そして一冊の本とダニエルの運命的な出会い。
この神秘的な導入部をひとたび読めば
読者は知らず知らずのうちにバルセロナの歴史舞台へと誘われてしまう。

スペインの内戦と独裁政権下の不安定な情勢の中で
謎の作家フリアンの過去を必死に探ろうとするダニエルだったが
徐々に危険が忍びより物語は思わぬ方向へ転がって行く。

ダニエルの前に突如現れる謎の怪人。
「風の影」作中の悪魔と同名を名乗るその怪人は顔が醜く焼け爛れ
カラックスの本を探し出しては次々と燃やしていくのだ。

ダニエルが想いを寄せる10歳近く年上の盲目の女性クララや
反分子を徹底的に弾圧する治安警察の悪徳刑事部長フメロ等、
とにかく脇役に至るまですべての登場人物がよく立っている。

ダニエルを支えるフェルミンの存在感がまた素晴らしい。
ブラックユーモアに満ちた彼の饒舌でスピーディーな語り口は
時に辛辣だが、とっても慈愛に満ちあふれたもの。
何度も迷い立ち止まるダニエルの背中を優しく押してくれるのだ。

近年巷に溢れる消費型のスイスイ読める小説ではない。
謎の作家の過去を洗い出すことはある意味で地道な作業。
彼の過去を知る人物一人ひとりを訪ね歩くダニエルに
じっくり時間をかけてつきあって行かなければならない。

スリリングでスピーディーな展開を好む人には不向きかもしれないが、
けっしてここで投げ出してはいけない。
この長い旅に根気よくつきあってこそ
最後に訪れる素晴らしい感動に出会えるからだ。

過去と現代を行きつ戻りつする巧みな構成はもちろんだが
カラックスをめぐる人々と、ダニエルに関わる人々を
対照し平行して描いていく手法が後半見事に結実するのである。
いやはや素晴らしい。

バルセロナの光と影の時代を背景に
傷ついた者たちの愛と葛藤、
少年期の淡い恋愛や父親との確執、
自由への渇望、権力との闘い、謎の探求と冒険…。

それまでバラバラになっていた謎の断片が
物語後半加速しながら一気に収斂していく見事さ。
小説の読みどころとなる様々な要素がこれでもかとぎこまれ
それらが渾然一体となって万華鏡の如く読者の前に展開されるのだ。

いつか私はもう一度、いやきっと幾度となく
本書を読み返すに違いない。
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┃ テーマ:ブックレビュー ━ ジャンル:小説・文学

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== Comment ==

多少の忍耐は必要だけれど…
その忍耐はしっかりと報われる、というところでしょうか。
1945年というともう65年も前のこと、歴史物を読んでいるようなところがありますが、バルセロナはかなり混沌としています。というか、この小説が混沌としているのかも知れません。その、混沌としたところが好きでして、それでもどうなるか、と心配し始めたら、そう「加速しながら一気に収斂」! お見事でした。





        
 

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